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山口 大智(やまぐち だいち)

創業45年を迎え、ピーナッツせんべい一筋で西浅井町大浦に店を構える『みつとし本舗』。琵琶湖のほとりに佇む昔ながらの家屋を活用した店内に入ると、ゆったりとした時間が流れます。

そんな『みつとし本舗』で、2代目であるお母さんと共に、3代目としてせんべいを焼く山口大智(やまぐちだいち)さん。18歳から手伝いをはじめ、2019年4月で9年目を迎えます。

山口さんがピーナッツせんべいを焼き始めて2年が経とうとした時、人生の転機が訪れました。なんと代々受け継がれてきたせんべいを焼く機械が壊れてしまい、新調を余儀なくされてしまったのです。

機械も決して安いものではないので、これを機に辞めてしまって別の職業に就くか、新調して継いでいくか、決断を迫られます。

腹を括り、継ぐ決意を後押ししたのは、おじいさんの存在でした。今でもはっきりと覚えている大好きだったおじいさんのせんべいの味を残したかったのです。
決意を胸に、代表をしている母に「やるわ」と言った時、「ありがとう。あんたに任せるわ」と言ってくれた言葉が原動力にもなっていると、はにかみながら話してくれました。

 

しかし、機械を新調後にいきなり出鼻をくじかれてしまいます。
機械を変えたことで、昔から続いてきたせんべいの味を出せなくなってしまったのです。常連だったお客さん達にも味が変わったと言われたり、如実に客足が減ってしまったりで、このままでは廃業しなければならないかもしれないと頭をよぎることもあったそう。

それでもそこから6年、新しい機械に合わせて毎日少しづつ変化をつけて焼き続け、近所に持っていき味見してもらうと「これはちょっとちゃうな」などソムリエのように昔の味を知っている人たちがアドバイスをしてくれて、日々改良を重ねていき、ようやく納得のいく味に近づいてきたのだといいます。

大きく近づいたのは、おじいさんの弟さんからの「生地を寝かせた方がいい」というアドバイス。アドバイス通り一晩生地を冷蔵庫に入れて冷やして寝かせてみると、生地がパサつかず、まろやかになったのだといいます。

以前の機械は当日に生地を作り焼いていたり、水などの配分に多少の誤差があっても美味しく焼けていたりしたけれど、今の機械は水の量を間違うとすぐ影響が出てしまいます。

その日の天気や季節によって人の感覚で配分を調整して焼かないといけなくなったので技術が必要になったのだそう。だからこそ「自分が焼いてるって思えるんですけどね」とせんべい作りの楽しさとやりがいを語ってくれました。

一番この仕事をしていて嬉しい時は、食べてくれたお客さんに「このせんべいは他のせんべいとはちゃうな!」「ここのせんべいを食べると他のせんべいは食べられへんわー!」と言われた時だそう。

食べて納得、和洋どちらの枠にも収まらない、お茶にもコーヒーにも合うお菓子こそがこのピーナッツせんべい。他のピーナッツせんべいとは違うみつとし本舗ならではの味を求め、遠方から訪れるお客さんも多く、発送も行っているにも関わらず店まで足を運んでくれる方も少なくないのだといいます。

この大浦という地域的にも、村の人たちが集まって飲むことも多いので結構みんな仲がよく、そういう意味でもまち全体の雰囲気がいいので、大浦の土地柄や雰囲気がよくてお客さんも遠方からきてくれているのではと考えています。

「世界中に旅をさせるではないけれど、みんなにピーナッツせんべいを食べて欲しい。まずは滋賀県、関西、全国とどんどん広げていければと思っています。僕の代で出来なくても次の代またその次の代と、この思いを託していきたい」と語る山口さん。

今はピーナッツせんべい一筋ですが、世界中に届けるためにそれが武器であれば続けるけれど、障害となりそうであれば一筋にこだわるつもりはないのだそう。新商品の開発なども視野には入れているが、まずはせんべいを食べる機会の減った若者にも食べて欲しいと既存のピーナッツせんべいに少し手を加えた新商品『MITSUTOSHI+(みつとしプラス)』を販売。

地元の名産品を”プラスした”この商品は、隣の高島市の名産であるアドベリーを使った蜜がかかっていて、ピンク色に化粧がされたせんべいはまた違った味わいとなっています。さらに現在は長浜の在来茶「こだかみ茶」を使った蜜をかけた商品も開発中とのことで完成が待ち遠しい。

その他にも今年から新しい挑戦として、その場で焼いたせんべいを屋台で販売したいと思っています。作りたてのせんべいは温かくて柔らかく独特な食感。その場でしか食べられないこの美味しさを食べてもらいたいと、屋台用の焼き機を製作中とのこと。

代々受け継がれてきた店を様々な展開でアップデートしようと挑戦を続ける山口さん。

加えて、せんべい屋をはじめとした菓子職人の腕に直に触れる機会を増やしたいと、ものづくりの職人たちの技を直接見られるようなフリーマーケットや、全国のせんべい屋さんを集めた「せんべいフェス」などを開催したいなど、今後の菓子業界を盛り上げるための構想を楽しそうに話してくれました。?

みつとし本舗のピーナッツせんべいの商品名は『丸子船』。パッケージにも、かつて江戸時代に琵琶湖で商船として活躍した丸子船が描かれています。

かつて様々なものを運んだ丸子船のように、代々受け継がれてきた歴史と想いを乗せて、山口さんはこれからもピーナッツせんべいを焼き続けていきます。


店舗情報
<みつとし本舗>
住所:滋賀県長浜市西浅井町大浦1601
電話番号:0749-89-0191
FAX番号:0749-89-1313
メールアドレス:info@mitsutoshi.net
HP:https://www.mitsutoshi.net/
営業時間:8:00〜18:00
定休日:第二・第三日曜日の午前
アクセス:県道557号線沿い 船と黄色の看板が目印

書き人:やませたかひで

details

山口 大智(やまぐち だいち)
No.
1
Name
山口 大智(やまぐち だいち)
Region
長浜市西浅井町
Occupation
菓子職人
Hobby
映画鑑賞