Persons
中村 喜隆(なかむら よしたか)
生まれ育った場所から旅立つか、居続けるか、そんな二者択一が誰にでも訪れます。
木之本町で50年以上もの間、LPガスの販売を営んでいる中萬商事株式会社の4代目・中村喜隆さんが選んだのは、「小さい頃から慣れ親しんだ地元に残る」こと。
大学を卒業後すぐ長男として22歳から父親が経営していた会社に勤めている中村さん。大阪で就職を決めていたところ、父親が会社まで出向いて就職を止めたというから驚きです。
今では代を継ぎ、奥さんや息子といったご家族を中心に5名の社員とパートさん1名の6名とともに地元密着でLPガスや灯油などの各種燃料を販売しています。
中村さんが地元にこだわり続ける理由。
そこには田舎ならではの、お客との代変わりしても続く密な付き合いの温かさにありました。
仕事をしていて一番楽しいことは、お客さんとの触れ合いだと話す中村さん。
親しくなって顔を覚えてもらってガスの相談や注文などで声をかけてもらうと、この仕事をやっていてよかったと感じるのだそう。
もちろん中村さん自身もお客さんの顔や名前は全部頭に入っています。
「電話がかかってくると、あの家はここが故障しやすいとか、前回はあの相談をしてきたなとか、すぐにわかります」
大手の商社が価格で勝負してくる一方で、24時間いつでも電話があったらすぐに対応するといったような中萬商事らしい地元密着のお客さんとの付き合いを大切にしています。
「一番遠いお客さんでも彦根の方で、その方も湖北から引越しされた方とか元々付き合いのある方なんです」と笑顔で答える中村さんの表情から、人間関係を一番大事にされていることが伝わります。
LPガスの販売をする上で、もう一方のライバルとなるのが『電気』。
どちらの方がいいとかではなく、電気には電気の、ガスにはガスの良さというものがあります。
料金がお得であるなどの理由で、ガスからオール電化にする家が増えているのも悩みの一つだと中村さんは話します。その影響で長浜市内でも後継のいないところは京阪神から大手が買収に来たり廃業したりするところも増えてきているとのこと。
そんな中、中萬商事ではガスならでの強みをより強めて差別化を図っていくことを大事にされています。
「ガスの良さはやっぱり炎が実際に見える、直火であるということですね。食育というか子供に食べ物を作る時には炎というものが見えることが大事だと思います。炎で調理をするということ。やっぱり炎はね、人間の文化の発祥ですから」
少し前までは安全性という面でIHが普及していますが、ガスコンロも最新の物はものすごく進化しているとのこと。
「営業先などでは安全性などのガスならではの良さを直接喋ったり、定期的に点検に行くなど『安全を売る』ことを大切にしています」
中村さん達の熱意が波及し、最近では実際に使ってみるとやっぱり炎の方がいいという方も増え、IHからまたガスに戻すお客さんも増えていると言います。
ずっと地元である木之本と共に生き、町の変遷を見てきた中村さん。
若い世代にたくさん帰ってきてもらいたい、県外から来てもらいたいという思いを強く抱いています。
「木之本は特に祭りがあったり、秋葉さんがあったり行いさんがあったりと都会にはない横の、地元のつながりが深いでしょ。都会にはないすれ違った人みんな知り合いのような、親戚のような付き合いがこの辺の良さだと思いますね。
人混みの多い東京で忙しく仕事してるよりも田舎の方で満ち足りた人間関係の中で生活したいという考えの方や、息子のように結婚し子供ができて、琵琶湖や自然のたくさんある地元で育てたいという人には木之本や湖北の環境は最適だと思います」
一方で、雇用の少なさや生活の難しい現状も懸念されています。
「最近少しずつ若者が増えてきたとはいえ、僕らが若い時と比べるとやっぱり少ない。若い世代に帰ってこいと言っていても、若い世代が帰ってきたいと思ってても、一番大事な仕事をする場所が、食べていくことが、収入を得ることができない。何にもなくて帰ってこいと言ってもね、やっぱ自立して家族を養える、それがなかったら帰ってこいとか言えないですよ」
観光や自営ではなく、工場などたくさんの雇用を産める場所をたくさん作ることが木之本や長浜北部の発展や若者の定着につながると中村さんは考えています。
現在、中村さんの後を継ごうと次男である優介さんが東京から4年前に地元へ戻り、背中を見ながら会社の仕事を学んでおられます。
そのおかげで買収や廃業を免れて安堵する一方で、これから事業を続けていく難しさにも直面しています。
「息子に代変わりしたら、地元で生き抜いていくために雇用を増やして、湖西や彦根の方に営業先を広げて行けたらと思っています。ガスの仕事以外では、別の事業として不動産関係も少ししていたりするので、ゆくゆくは一緒にしようかなと思っています」
実は中萬商事のルーツは敦賀の船主。昆布などの海産物を木之本で販売していました。
そこから蒟蒻の製造を始め、中村さんの父がお米の販売を始めそこからガス販売へと繋がっていきます。
「お米は台所から入るでしょ。台所から入るということはコンロとかガスというのに繋が理やすいんです。なので、お米屋していてガス屋というのは多いんです。商売というのは時代に合わせて変化していくものなんですよ。同じ商売ばっかりずっとしてるとやっていけないですね。派生派生です」
先代達に続くようにLPガス販売から不動産へと近しい業態を変化させていく。
ずっと同じでやっていく会社もありますが、時代のニーズに合わせて変化させていくことも長く会社を続けていくことに必要なことかもしれません。
中萬商事のモットーは「明るく楽しく、お客さんを第一に」。
社内の雰囲気は社員同士もお客さんにも家族のような雰囲気に包まれている明るい職場です。
30代前半とまだ若い息子さんと同世代の若い世代に今後の会社を共に育てていく『仲間』として一緒に働いてもらえる楽しく元気な人を積極的に採用したいとのこと。
「人と喋ったりコミュニケーションを取ったりするのが好きな人がうちに来てもらえたら嬉しい。田舎らしい密な関係で仕事をしたい人にはぴったりだと思います」
また、ガスの販売に必要な資格や高圧ガスの資格の他、設備士や下水道工事の資格なども会社で取得が可能とのこと。万一うちの会社を辞めてもスキルや資格を備えた人材を育てていきたいと話す中村さん。
時代の変化に臨機応変に対応し、地元で生き抜いていくために何が必要か、何が大切かを常に考える中村さんの郷土愛と情熱はこれからも熱く燃え続けます。
<中萬商事株式会社>
住所:滋賀県長浜市木之本町木之本1121
電話番号:0749-82-3108
メールアドレス:K-ZONE2711@yahoo.co.jp
HP:http://nakaman-gas.com
営業時間:9:00〜18:00
定休日:日曜日
アクセス:JR木之本駅から徒歩5分
書き人:やませたかひで